好き、禁止。

……とはいえ、さっきの態度はなしだ。
まずは謝るのと、家まで連れて帰ってくれて看病してくれたお礼を言いたかったのに。

せっかくメモを残しておいてくれたのに、メールも電話も出来なかった。
直接お礼を言いたいから、だなんて自分の中で言い訳をして、ただ送る勇気がなかっただけだ。


昨日も一昨日も、考えた。
私はどうすればいいのか。

神月くんに好きって言いたい。
私もあなたのことを好きになったから、付き合ってくださいって?
……いやいやいや、なんか無理。
みたいなことをこの2日間、ずっと考えていた。

神月くんはどうしてあんなに何回も、好きだと伝えられるんだろう。たった1回言うのでさえものすごく勇気がいるのに。

やっぱり、経験値の差なんだろうか。


「いらっしゃいませ、こんにちは」

客が増えてきた。
私と神月くんがレジに立って、店長はどちらかのヘルプについてくれている。

接客している時は、余計なことを考えないでいられる。お金を扱うのだからミスは出来ないし、自然と集中するからだ。

常に2つ3つ先のことまで考えて仕事をする癖はついている。
カゴの中身を一目見ただけでどのレジ袋を使えばいいのか判断し、目で見なくても感覚で目当てのレジ袋をさっと用意することも出来る。

常連客の場合なら、パスタに付けるのはお箸なのかフォークなのかも覚えているし、たばこの銘柄も顔を見ただけで頭に浮かぶ。

私にあるのは、ここでのバイトの経験ばかり。
コンビニの仕事なら誰よりもスムーズにこなすことが出来て、失敗もしないのに。
そんなことは、恋愛においては何の役にも立ってくれない。

< 54 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop