好き、禁止。

8時になると、宣言通り神月くんがスナック菓子の補充を始めた。
必然的に私はレジまわりにいることになる。

「神月くん、思った通り女性客に人気だよね〜」

アイス用のスプーンを補充しながら、店長が言った。
私はレジカウンターの拭き掃除をしている手を一瞬止めて、店長のほうを見る。

「この前も、外の掃き掃除を頼んだんだけどさ、女3人組に話しかけられてたよ」

「……へえ」

なんとなく想像はつく。いわゆる逆ナンというやつだろう。

「石川くんが神月くんのこと王子って呼ぶの、納得出来るなー」

メロンの国からやって来た高級メロン様。
神月くんがバイトを始めたばかりの頃、そんな冗談を言っていたのを思い出した。

たとえるなら彼は一国の王子様。
私は、ただのお掃除係。
2人は同じ空間にいても、決して交わることのない存在。王子様はお掃除係と目が合うことはないし、お掃除係は王子様に直接話しかけることはない。
まるでそんなお伽話のように、私と神月くんは別世界の人間なんだろうなと思っていた。

だけどそんなことはなくて、彼を王子様に勝手に仕立て上げていたのは私自身。
彼は、いつでも隣にいてくれていた。

一緒に歩いた。
手を繋いだ。
色んな話をした。
抱き締められた。

嘘だと思った。
何かの勘違いだと思った。
王子様に手を差し伸べられて、戸惑った。
魔がさしたんじゃないか、相手を間違えてるんじゃないか。私が本気になれば、手のひらを返されるんじゃないか。

それならばと、私が嫌でも信じられるように彼は全身で気持ちを伝えてきた。

目をそらすなんてこと、初めから出来るわけがなかったんだ。

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