28時間
食前酒のシャンパンをあっという間に飲み干して、遥が慎一に質問した。

「私、働いてもいいでしょうか?
明里ちゃん、毎日のように放課後クラブで遊んで帰ってくるんです。
帰宅は5時過ぎ。
最初は、宿題とか準備とか、小学校って大変だな、って思ったんですけど、
1学期が終わるころには、慣れたせいか暇になっちゃって」

慎一は、遥がそろそろ「外で働きたい」と言い出す頃だろうと思っていた。

遥が働き続けたいタイプだというのは、何となくわかっていた。

翔太の妻がずっと働いているという話を聞いた時、とても羨ましがっていたし、両親からは「共働きは楽しい」と言われて育った様子だった。

「保育士に復帰するの?」

「いえ。できれば普通の会社員を体験したいんです。
大人社会のルールとかマナーがあるでしょ?
そういうの知りたくて」

洗練されるためにはこういうことも必要だ、と遥は考えていた。

慎一は思った。

いい考えだ。
若いうちに何でも経験しておいた方がいい。

遥が心配そうに聞く。

「『市長の妻』って、OLになれますかね?」

「…聞いたことないけど…普通のOLになりたい市長の妻がそんなにいるとは思えないし…でも、採用担当が気付かなければ大丈夫じゃない?
履歴書に夫の名前、書かないし」

「じゃあ、ほんとにいいですか? 再就職活動しても」

「いいよ、やってみたら。
再就職したら、家事は協力する。
子どもができたら育児も半分」

「ほんとに?」

「約束する」

「無理してませんか?」

「してない」

忙しくはなるだろうが、今度は、家事も育児も一緒にやってみたいと思った。

負けず嫌いの自分は、これで彩子との失敗を挽回しようとしているのかもしれないな。
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