過保護な副社長はナイショの恋人
と言うと、副社長は一瞬間を置いた。

「俺は、梶田さんのことをもっと知りたいんだよな。そういう理由じゃ、会ってもらえない?」

「私のことを知りたい……?」

どうして、副社長ほどの人が私のことをそう思うんだろう。

返事をためらっていると、副社長の電話が鳴った。握っているスマホからで、大きくため息をついている。

「ごめん、梶田さん。仕事の電話だ。引き止めて悪かったな」

「あ、いえ……。それでは、失礼します」

会話を聞くわけにはいかないし、今の言葉で出ていけと言われたのが分かった。

そそくさと部屋を出て、秘書室の前の荒木さんを通り過ぎる……つもりでいたけど、足が止まってしまった。

「梶田さん、どうかしましたか?」

さっきの副社長とのやり取り、あのままでよかったのかな……。金曜日の返事もまともにしていないし、連絡先だってうやむやにしたままだ。

「あの……。ペンと紙をいただけませんか?」

「ペンと紙? これでいいですか?」

訝しげな顔をした荒木さんは、白いメモ用紙とペンを差し出した。

お礼を言って受け取ると、そこに私の携帯番号を書く。副社長に聞かれたときは戸惑ったけど、このままなにもなかったように帰ることも心に引っかかった。
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