過保護な副社長はナイショの恋人
それから十分ほどで着いた場所は、高級料亭で一見さんお断りの店だった。

和風の品格ある佇まいの建物で、一翔さんは迷いなく店に入る。

「どうかした? やっぱりやめる?」

立ち尽くす私に気づいた一翔さんが、怪訝な顔を向けた。

「いえ……。ただ、高級な場所ばかりで、気後れしちゃって」

普通のお店じゃダメなのかな……。そう思っていると、一翔さんが手を握った。

「咲実が、会社の人には、俺たちのことは内緒にしておきたいって言ったろ? こういう場所なら、きっと見られることもないから」

「えっ? そういうことだったんですか……」

たしかに、一翔さんと付き合うことになって、会社の人たちには秘密にしておきたいと言った。

相手は自分の会社の副社長だし、仕事がしにくい雰囲気になるのがイヤだから。

それを、気にかけていてくれていたなんて……。

「ありがとうございます、一翔さん。私を気遣ってくれていたのに……」

それなのに、普通のお店がいいとか思った自分が恥ずかしい。

すると一翔さんは、クスッと笑った。

「その言い方だと、今日の俺はあんまり良く思われてなかったみたいだな」
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