過保護な副社長はナイショの恋人
「そ、そんな……。違い……」

“違います”と言いかけて、店員さんがやって来て会話は止まる。

薄いピンクの着物を着た四十代くらいの女性で、かなりの美人だ。にこやかな笑顔で一翔さんを迎え入れ、なにやら話をしている。

どうやらここは、一翔さんのお父さんも来るらしい。さっきのお店といい、やっぱり一翔さんは、“普通”じゃない。

「それでは、こちらへ」

と案内されたのは奥にある個室で、襖を開けると畳の部屋と日本庭園が目に飛び込んできた。

「素敵……。落ち着きますね」

「だろ? たまには、こういう場所もいいと思うんだ」

掘りごたつに、一翔さんと向かい合って座る。店員さんがいなくなったところで、彼に話しかけた。

「一翔さん、さっきのことですけど、違いますから。一翔さんのこと、良く思っていなかったとか、そういうことは……」

と、弁解すると彼は微笑んでくれた。

「それならいいんだけど。今日は俺が振り回したなって、ちょっと反省したから」

「そんなわけないです。本当に、ごめんなさい。高級な場所に慣れてないだけなんで……」

最初のデートがこんな調子で大丈夫なんだろうか。自己嫌悪に陥っていると、一翔さんが手を優しく握った。

「じゃあ、緊張ついでにこのあとは、俺の家に来ないか? 咲実と、ふたりきりになりたい」

「……はい。私も、一翔さんとふたりきりがいいです」

もっともっと、彼を知りたい。知れば知るほど、今よりもっと好きになれそうな気がするから。
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