過保護な副社長はナイショの恋人
ーーカチャっとドアの開く音とともに、「あれ？」という一翔さんの声がして、私は緊張しながら玄関に小走りで向かった。

「おかえりなさい、一翔さん。お邪魔してます……」

仕事が早く終わると言っていたとおり、九時過ぎには帰ってきてくれた。彼の言葉に甘えて、本当に来てしまったけど、迷惑がられないかな……。

「ただいま……」

ア然とする一翔さんを見て、少し不安になる。“いつでも来ていい”は、もしかして社交辞令だった？

「あ、あの。一翔さん、ごめんなさい。留守の間に来ちゃって……」

おずおず彼を見上げると、怪訝な顔をされた。

「なんで謝るんだよ？ もしかして、ご飯作ってくれた？ いい匂い……」

「そうなんです。一翔さん、あまり自炊しないって言ってたから」

勝手にキッチンを使ったし、イヤな顔をされたらどうしよう。そう思ったけれど、ビジネスカバンを廊下に置いた一翔さんは、私を優しく抱きしめた。

「嬉しいよ、ありがとう。咲実に出迎えてもらえたうえに、ご飯まで作ってもらったな」

「迷惑じゃなかったですか？ 勝手に来たうえに、キッチンまで使っちゃって……」

一翔さんに抱きしめられると、ドキドキしてくる。甘い彼の香りに酔いしれていると、返事が返ってきた。

「そんなわけないだろ？ 迷惑なら、そもそも鍵を渡してない。それより、ご飯食べたい。そのあとは……」

「え？」

含みのある言い方をした一翔さんは、私を見てニッとした。
< 53 / 94 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop