過保護な副社長はナイショの恋人
一翔さんはそう言うと、私に覆い被さった。何度も唇にキスを落とし、愛おしそうに私を見ている。

「二週間、寂しいな。咲実、いい子にしてろよ」

「はい……」

目を閉じると、もう一度彼のキスが降りてきた。私だって寂しいし、もっと一翔さんと一緒にいたい。

水曜日の飲み会は、雅也先輩とふたりきりにならないようにしよう。

私はもう、一翔さんとじゃなきゃ、ふたりきりにもなりたくないと、改めて思ったから……。


ーー水曜日になり、あやめは彼氏との約束があるからと、飲み会は欠席した。

そもそも、吉原さんの連絡ミスで、本社側は予定が合わなかった人が多い。それなのに、当の本人は「ごめんね〜」と軽く済ませるのだから、ウンザリする。

会場は、中心部にある創作居酒屋で、店内は私たちのような社会人グループで賑わっていた。

「あーあ。副社長がいないと、本社にいても張りがないのよね」

と、さっそくボヤいているのは吉原さんで、酎ハイ片手に頬杖をついている。

「たしかに、うちの副社長はカッコイイもんな。あの若さで叩き上げの副社長、それも家柄もいいし」

吉原さんに反応した雅也先輩が、しみじみと言っているけど、私には一翔さんの話題が出るだけでドキッとしてしまう。

「家柄って? 副社長って、まさかお金持ちのご子息なの⁉︎」

本店の女子社員が、先輩の話にくいついている。それは私も同じで、一翔さんのご両親のことすら知らないから、耳はしっかり会話に向いていた。

「お父さんが外資系銀行の社長で、おじいさんが名士の家柄らしい。 俺たちとは、世界が違うよ」
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