過保護な副社長はナイショの恋人
「電話?」

遅い時間の電話に、先輩は怪訝な顔をしている。隙ができたところを見計らって、思い切り彼の体を押し返した。

さすがの先輩も油断をつかれたのか体がよろめき、なんとか体が離れる。

とにかくこの場を逃げなくちゃ。その思いで必死に走った。背中に先輩の「咲実ちゃん!」と呼ぶ声が聞こえるけど、構っている場合じゃない。

まだ、大通りはひとけもあるし、目についたコンビニに入ると、ようやく電話に出た。

誰からの着信だったのか、確認をする暇もなく息を切らしながら「はい」と出ると、電話の向こうから愛おしい声が聞こえてきた。

「咲実……? 俺だけど、なにかあったのか? 息が切れてるぞ」

「か、一翔さん⁉︎ なんで⁉︎」

まさか、彼からの電話だったなんて……。偶然とはいえ、助けてくれたのは、一翔さんからの電話だった。

「ニューヨークに着いたって、連絡だったんだけど、そっちは夜遅いだろ? なにかあった?」

「いえ、実は今日飲み会だったんです。本社と本店の。今から帰るところで、走っていたんで」

雅也先輩のことは、今は言えない。一翔さんの海外出張を、私のことで気を煩わせたくないからだ。

「それなら、いいんだけど。夜だし、気をつけて帰れよ? 俺のマンションにきてくれて構わないから」

「ありがとうございます。一翔さん、お仕事頑張ってくださいね」
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