過保護な副社長はナイショの恋人
さすがに彼の留守中に、部屋には上がれない。だけど、気持ちだけは素直に受け取った。

「ありがとう。咲実こそ、あんまり頑張り過ぎるなよ? じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい……」

電話を切ると、力が抜けていく感じがする。私を助けてくれたのが、一翔さんだったことが嬉しくてたまらない。

早く会いたい……。私はいつの間にか、彼じゃないとダメだと思うようになっているみたい……。

しばらくスマホを握りしめ、一翔さんとの会話の余韻に浸っていると、ガラス越しに高級車が横付けされたのが見えた。

まるで、一翔さんの車みたい……と、なんでも彼に結びつけている自分に心の中で苦笑いをする。

なにげなくその車を見ていると、後部座席からひとりの女性が降りてきた。夜でも街灯でハッキリ見えるその姿に驚いた。

真衣子さんに間違いない。初対面のときの彼女の上品さと、愛らしさを覚えている。

白いシャツにクリーム色のフレアスカートを履いていて、真っ直ぐコンビニに入ってきた。

社長令嬢でもコンビニを利用するんだ……なんて、のんきなことを思っていると、彼女は私の方へ向かってきた。

背筋を真っ直ぐ伸ばし、私の目の前で立ち止まると、キツイ目を向ける。

「梶田……咲実さんですよね? 蓮見真衣子です。覚えてますか? ホテルで会ったときのこと……」

「は、はい。覚えています……」

たった一回しか会っていないのに、私の名前と顔を覚えているなんてスゴイ……。

「それなら、良かった。梶田さん、明日でも明後日でも、お時間取れるかしら? お話ししたいことがあって」

「話……ですか?」

世間話ではないことくらい、真衣子さんの雰囲気から分かる。それにしても、私になんの用事があるのだろうと訝しげに見ていると、彼女がハッキリ言った。

「一翔さんのことです」
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