過保護な副社長はナイショの恋人
「咲実ってば! ボーッとし過ぎ」

あやめの呆れた声に、ハッと我に返った。いけない、業務中なのに一翔さんのことばかり考えている。

資料作りをしていたはずの私の手は、キーボードの上で止まっていた。

「ごめん。このファイル、そろそろ保存しなきゃね」

と苦笑すると、あやめは唇を尖らせている。

「そうよ。私も使いたいんだから。それより、なにかあったの? いいこと?」

「べ、別にそんなんじゃないよ」

急いでファイルを保存すると閉じた。一翔さんから一緒に暮らそうと二日前に言われ、今夜から彼のマンションに帰ることになっている。

そのことを考えていたら、気がそぞろになっていて反省だ。

「あっ、まさか安部さんに告白された? 結構噂になってるみたいよ? 飲み会のあと、ふたりで抜けたんだってね」

ニヤニヤとしたあやめに、私は目を丸くした。まさかあの夜のことが、噂になっているなんて……。

「そんなんじゃないし、だいたいどんな噂なの?」

「えっ? ふたりで消えたから、きっと告白だよって。違うの?」

「違うよ! そんなんじゃないし、すぐ帰ったから」

そう反論すると、あやめはつまらなさそうな顔している。いつの間に、噂になっていたんだろう……。

あの飲み会の夜から、先輩から連絡すらないくらいなのに。
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