過保護な副社長はナイショの恋人
その日は結局、一翔さんのキスの感触がずっと残っていて、仕事に集中しながらも、時折彼を思い出していた。

「夜になっても会えるのに」

ひとりでクスッとしながらマンションへ向かう。今夜は十九時には会社を出られたけれど、一翔さんは遅くなるとメールが入っていた。

温かいお風呂を沸かして待っていよう。そんなことを考えなかがら、マンションのエントランスまで着いたときーー。

「咲実さん」

真衣子さんの声が背後から聞こえ、ビクッとする。まさか、待ち伏せされていた?

ゆっくり振り向くと、真衣子さんが睨むような目で見ていた。

「な、なんでしょうか……?」

彼女はヒールの音を響かせながら、私の側へ来た。

「一翔さんはいる?」

「いえ。今夜は遅くなるみたいですので」

路地を一本入っているから、偶然出くわしたわけじゃないだろうし、私の帰りを待っていたのだとしたら怖い。

「そうよね。だって今夜は、彼、私の父と会うのよ」

「え? 蓮見社長と……?」

「そう。私たちの結婚話を詰めるためにね」

真衣子さんは鼻で笑うと、勝ち誇ったような顔をした。そんな彼女に、私も言い返す。

「そうだとしても、一翔さんが結婚を承諾するはずありません」

私は彼を信じている。それは、大きな愛を感じるから。

「そうかしら? 私たちの結婚はね、お互いのおじいさま同士が熱望しているのよ」

「おじいさま……?」

たしか、雅也先輩が言うには、一翔さんのおじいさんは名士なのよね……。

「ええ。お互い、おじいさま同士が昔馴染みの友人で、孫同士の結婚を望んでいるのよ」

「でもだからって、一翔さんが簡単に首を縦に振るとは思えません」
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