過保護な副社長はナイショの恋人
「行ってらっしゃい、一翔さん」

玄関先で彼を見送りながら笑顔を向けると、キスをされた。

「行ってきます。せっかくの休みに仕事でごめんな」

唇をなぞりながら、一翔さんは優しくそう言った。彼の指の感触にも、穏やかな笑みにも、全てにドキドキする。

「気にしないでください。晩ご飯、作って待ってますね」

「ああ、ありがとう。じゃあ……」

一翔さんが出ていくと、ひととおり掃除を済ませる。天気のいい土曜日、窓を開け放し心地よい風を感じていたところに、インターホンが鳴った。

「誰だろう……」

モニターを見ると、真衣子さんの姿がある。一翔さんに会いに来たんだろうか。

緊張しながら応答すると、彼女はキッパリと言った。

「咲実さん、話ができますか?」

どうやら、一翔さんではなく私に話があるらしい。きっと、『別れてほしい』と言われるんだろう。

ウンザリするけど、追い返して素直に聞いてくれるか分からないし、またこうやって訪ねてこられても迷惑だ。

「できます……。すぐに降りるので、待ってください」

不本意だけど、話には応じよう。そして、これっきりにしてもらわなくては。

バッグを手に取ると、急いで一階まで降りていった。
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