過保護な副社長はナイショの恋人
エントランスを抜けると、真衣子さんが立っていた。厳しい目で、私を見ている。

「おはようございます、咲実さん」

「おはようございます……。よくここだと分かりましたね?」

緊張しながら彼女に問いかけると、鼻で笑われた。

「父から教えてもらったから。昨夜、一翔さんから、あなたがここにいることを聞かされたみたい」

なるほど、だからかと納得した。一翔さんは自分が仕事であることも話しているだろうし、彼が留守なのを分かって、訪ねてきたということなのか……。

「あの……。近くにカフェがあるんです。真衣子さん、そっちへ行きませんか?」

マンションの前で立ち話は目立つから、店に誘うと彼女は頷いた。

徒歩五分ほどの場所にあるカフェは、白が基調の都会的な雰囲気で、店内は女性客がほとんどだ。

私たちは奥にある席に向かい合って座りコーヒーだけ注文すると、それまでずっと無言だった真衣子さんが即座に切り出した。

「咲実さん、どうして一翔さんと別れてくれないんですか? 本当に迷惑なんですよ」

「どういうことですか? 迷惑って……」

やっぱりその話か……と、憂鬱に思いながらも、迷惑という言葉に引っかかる。

「咲実さんが、全然分かってくれないから、一翔さんは勘当されたんですよ。知ってます?」
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