過保護な副社長はナイショの恋人
「ただいま」

二十一時になり、一翔さんは帰ってきた。今夜はいつもより早めで良かったとホッとする。

これで、彼にさようならが告げられる。

「お帰りなさい、一翔さん」

玄関にスポーツバッグを持ったまま出迎えた私に、彼は怪訝な顔をした。

「どこかへ行くのか?」

「はい。自宅へ戻ろうと思って……」

冷静に言った私に、一翔さんはますます不審な顔になる。

「なにかあった?」

「……私、一翔さんと別れたいんです」

「えっ?」

アタッシュケースを床に置いた彼は、私の肩を掴んだ。

「どういうことだ? 突然、そんなことを言われて、まるで理解ができないんだけど」

一翔さんをまともに見れなくて視線をそらす。私は仕事で成功をして、活躍している彼が好き。

だから私のせいで、その仕事を奪われるのだけは、いたたまれなかった。別れという選択が、正しいのかなんて分からない。

でも、これで一翔さんが今まで積み上げてきたものが守られるのなら……。

「目を見てくれないか、咲実。どうして突然、心変わりした?」

吸い込まれそうなほどに、キレイな彼の瞳を見つめていると、涙が浮かびそうになる。

でもその思いは抑えて、ゆっくりと言った。

「ずっと前から考えていました。やっぱり、私には贅沢な雰囲気が疲れるんです。これ、お返しします」

指輪を差し出すと、一翔さんはゆっくり受け取った。

「本気なのか……?」

「はい。今まで、素敵な時間をくださって、ありがとうございました」

頭を下げると部屋を出ていく。一翔さんはそれ以上なにも言わず、動かずただ指輪を見つめていた。

パタンーーとドアを閉めた瞬間、涙が込み上げる。これで良かった……?

これで本当に、一翔さんの積み上げてきたものが守られるの?
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