過保護な副社長はナイショの恋人
私の反応を見た先輩は、大きくため息をついている。背もたれに体を預け、宙を見上げた。

「ダメかぁ。咲実ちゃんとは、出会って長かったのにな。どうしてもっと早く、アプローチしなかったんだろう」

「本当にすみません……」

そんな風に想ってもらえたのは嬉しい。でも私には、これから先も先輩の気持ちに応えることはできないと思う。

心は一翔さんに奪われてしまったから……。

「ううん、謝ることじゃない。だけどせめて、今までどおり先輩後輩の関係ではいさせてくれる?」

先輩はようやく笑顔を見せてくれた。普段の先輩らしい爽やかな笑みだ。

「もちろんです」

私もやっとホッとして、笑顔を浮かべられた。

「じゃあ、ここからはいつもどおり、仲良く食べて飲もう」

「はい……」

ごめんなさい、先輩……。そして、ありがとうございます。

それからは、仕事の近況報告や、学生時代の話などで明るい雰囲気で過ごせた。雅也先輩とは、こういう関係がいい。

「先輩、ちょっと化粧室に行ってきます」

そろそろ帰る頃になり、中座する私に先輩は笑顔を向けた。

「ああ。ごゆっくり」

足早に化粧室へ向かいながら、VIPルームが近くにあったと思い返す。

今夜、一翔さんがいたりして……なんて、いるわけないかと、自分の未練がましさに苦笑したときーー。

「じゃあ、一翔くん月末に」

と、聞いたことのある男性の声がして足が止まった。声の方へ顔を向けると、VIPルームから蓮見社長と一翔さんが出てくるところだった。
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