過保護な副社長はナイショの恋人
ーー三十日。一翔さんに言われた午後七時に、石庵に着くと、すぐに仲居さんが迎えてくれた。

どうやら、今夜は貸切らしい。そんなことをしてまで、いったいなにが行われるのだろう。

緊張しながら、店の奥の座敷に通された。

「梶田様がお見えです」

仲居さんの声かけに、即座にふすまが開かれる。開けたのは一翔さんで、私を見るなり抱きしめた。

「や、やめてください……」

こんな風に抱きしめられたら、まだ心がときめいてしまう。決心を揺らがせたくなくて、彼の体を押し返そうとしたとき、

「一翔、お前が話していたお嬢さんは、その方かね?」

年配の男性の声がして、一翔さんは私を離した。

「そうです、おじいさん。彼女が、俺の愛する女性です」

おじいさん⁉︎ 改めて部屋に目をやると、長テーブルに、蓮見社長と真衣子さんを始め、初老の男性ふたりと、中年の男性と女性が座っている。

その方たちが、一翔さんのご両親とおじいさんだということは、なんとなく予想ができるほど、一翔さんとよく似ていた。

そして、白髪の威厳ある初老の男性が、どうやら一翔さんのおじいさんらしい。もう一人の方は、真衣子さんのおじいさんらだろう。

「しかし、そちらのお嬢さんは一翔、お前を嫌っているように見えるがな」
< 88 / 94 >

この作品をシェア

pagetop