ハルを待つ人
1春を待つ人


初めてピアスを開けたのは、15歳の時だった。耳に穴を開けるだけで世界が変わるなんて思ってはいない。お洒落なピアスを出店で見つけたとか可愛らしい理由でもなくて、唯一世の中で正当化された自傷行為だと感じていたから。その自傷行為は、高校卒業する年には、耳だけで二十を超えた。小さな小さな造った穴の中から、体にも心に溜まった、不安や不満、焦り怒り、ありとあらゆるマイナス感情が少しだけ抜けているような気がした。風船みたいに一気にではなくて、貼りでついた隙間から、漏れていく空気のようなものを思った。
その僕なりの自傷行為は、精神不安定な子どもを装うこともなく、むしろ非行に走る不良少年だと、学校、同級生、家族、身の回りの人全ては判断した。煙草も染髪もしていないのに、誰もが僕を誤解する。「成績も良くて真面目だったのに」なんて嘆く教師も、「何が気に入らないの」と泣く母親も、「おまえいつからヤンキーみたいになったんだよ」とからかう旧友も、なにも分かってない。
入学してから1度も下がってないテストの順位よりも7時には帰宅して家族と夕食を囲む生活よりも、耳を飾るシルバーピアスで僕を評価しているようだった。
思い切っていっそう彼らが思う不良じみた高校生になってしまおうと髪の毛を染めてみたけれど、それは拍車をかけて僕の印象をより悪く映してしまった。色が落ちた赤味のはいる明るいブラウンを鏡で見ると、吐き気がする。毎朝眺める洗面所の三面鏡に知らない自分が生きてるようだったから。
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