不機嫌なカレと秘密なつながり
右胸にある醜い傷痕を白いワイシャツを着て、あたしは隠した

首元までしっかりとボタンをつけると、赤いチェックのリボンを結ぶ

リボンと同じ生地のスカートをはいて、紺色のブレザーに袖を通せば、学校に行ける姿になる

長い黒髪で、後頭部から背中にかけて残っている傷を隠せば、あたしの登校準備が整う

黒光する皮靴に足を入れて、学校指定の皮の鞄を手に持つと、寮の部屋を飛び出した

長い廊下を歩き、階段を下りる

寮の管理人さんに朝の挨拶をしたあたしは、ドアをあけて外に出た

朝の眩しい光が、あたしの眠い身体を叩き起こした

今日も暑くなりそうだなあ

嫌な季節が近づいてる

春から夏へとかわろうとする5月下旬

あたしは夏が嫌い

薄着になる季節は嫌いよ

傷口を隠すのが難しくなるから……

「おい」

女子寮の玄関の壁で、大きな黒い影でもそっと動いた

「姫歌(ひめか)、どこに行く」

あたしはくるっと振り返ると、180センチ以上はある恰幅の良い男を睨んだ
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