夢見るキスと、恋するペダル
お兄さんは、ソファからなかなか立たない私の隣にどさりと腰を下ろし、業務机の上にある書類を取った。
そこには『コシノサイクル 代表 小篠 航一』と書かれていた。
コウイチ?
この人の名前?
お兄さんが店長さんなのかな?
「コウイチさん…っていうんですか?」
「え?あ、違うよ。これは親父。俺はワタル」
「ワタル……」
「航海の航って書いて、ワタル。コウイチのイチを取っただけだけど」
航さん。なんか似合う。
私は、視線を外して紙を持つ彼の手を見た。
自分でもいつの間にか、人の目が見られなくなっていることに薄々勘付いていた。
そろそろ帰ろう……。
財布を取り出して立ち上がった。
「あの、ありがとうございました。1400円でしたよね」
「いや、いいって」
「だめです、私の気も済まないし……あっ」
押し問答の末、財布が転がりソファ下に落ちた。
「あああ……」
しゃがむ私を航さんは手で遮った。
「あ、いいよ。制服汚れるから、俺が取る」
コンクリートに膝をつき、広い背中を屈めている。
結局私も膝をつき、ソファの下を覗いた。
「汚れるって言ってるのに、全然言うこと聞いてくれねぇな」
航さんの唇が間近で動き、どきりとした。
顔が、体が、近い。
そこには『コシノサイクル 代表 小篠 航一』と書かれていた。
コウイチ?
この人の名前?
お兄さんが店長さんなのかな?
「コウイチさん…っていうんですか?」
「え?あ、違うよ。これは親父。俺はワタル」
「ワタル……」
「航海の航って書いて、ワタル。コウイチのイチを取っただけだけど」
航さん。なんか似合う。
私は、視線を外して紙を持つ彼の手を見た。
自分でもいつの間にか、人の目が見られなくなっていることに薄々勘付いていた。
そろそろ帰ろう……。
財布を取り出して立ち上がった。
「あの、ありがとうございました。1400円でしたよね」
「いや、いいって」
「だめです、私の気も済まないし……あっ」
押し問答の末、財布が転がりソファ下に落ちた。
「あああ……」
しゃがむ私を航さんは手で遮った。
「あ、いいよ。制服汚れるから、俺が取る」
コンクリートに膝をつき、広い背中を屈めている。
結局私も膝をつき、ソファの下を覗いた。
「汚れるって言ってるのに、全然言うこと聞いてくれねぇな」
航さんの唇が間近で動き、どきりとした。
顔が、体が、近い。