夢見るキスと、恋するペダル
汗と香水の混じった熱い匂い。
いい匂い……。
すり、とシャツに頬を寄せた。
大きな手で、頭を包まれるように撫でられた。毛並みが揃うような気持ちよさ。
ドキドキするのに……ずっとこうされていたい。
「…………ここで俺に襲われたらどうすんの」
航さんは困り切った顔で項を掻きながら、私のこめかみで囁いた。
コンクリートの床についている左手首の筋に、そこはかとない色気を感じた。
「……私を襲うの?」
「逆だよ。襲わないけどさ……」
ここで、この人にめちゃくちゃにされてもいいなって思える。全部奪われたら、何かが変わるかもしれない。空気じゃなくなるかもしれない。
彼の身体を抱きしめた手に力を込めた。
「……自分を大事にしなよ」
「大事にしてるから、今航さんをギュってしてるの……」
自分の鼓動なのか、航さんの鼓動なのかわからない。
ドクドクと強い脈を感じて、体の芯が熱い。
出会ったばかりのこの人が、私をどこかへ連れ出してくれるんじゃないかって……。
至近距離で目が合う。
訝しげに私を見つめている瞳に、もっと近づきたくて、吸い込まれてしまいそうで。
「…………」
さらに沈黙は続く。航さんは私を押しのけもしないけど、抱き寄せもしない。
その唇に、キスしたいと思ってるのは私だけ?
瞳をゆっくりと閉じる――と、航さんが私の唇を触った。