夢見るキスと、恋するペダル
もっと、もっと、近づいたら、何かが変わる?
キス……したら、何かが変わる?

「……………」

航さんの、何もかも見透かすような瞳に、ハッとした。

「キスすんの?」

と聞きながら、私の腕をぐっと押し戻し、上体を起こす。


「キスしたぐらいで何も変わらないよ」

「な、なんでわかるの?」

ほとんど知らない他人なのに、なんで、私の頭の中がわかるの?
航さんは、目を丸くする私に諭し続ける。


「現実はずっと存在してるんだ。夢見させてくれる王子様なんていないからな」

「――――……」

リアルを突き付けられて、黙るしかない。
悔し紛れに彼の太ももを引き寄せ、膝に顎を乗せてやった。

航さんは、じとりと私を見ながらも、拒まずそのままにしてくれた。

「私は……王子様じゃなくて、小篠さんにキスしてほしいって思ったのに……」

「するかよ。そもそも俺のこと好きでもないだろ」

好きじゃないことは、ない。
でも絶対に嫌いじゃない。
そもそも、好きでもない人とキスしたいと思うだろうか?
考え込む私に、航さんは溜息をつく。

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