夢見るキスと、恋するペダル
「…………って、まあ……。俺は、中卒だから。高校も辞めちゃったし。シビアな環境なのに高校通ってて、俺からするとそれだけで尊敬だよ」

「高校やめたの?」

「うん。親父にはめっちゃ怒られたよ」

「辞めて、後悔してない?」

「それはないかな。この仕事好きだし、食えてるし」

私は、高校を辞めたいわけではないけれど。
航さんにそこはかとなく感じるシンパシーや、安心感や、あともう一つの気持ちが、胸を満たす。

「……かっこいいね……」

「照れるわ。やめてくれよ」

航さんは、はぐらかすように笑い、私の腕を引き上げてソファに座らせる。
時計を確認すると、もう閉店時間は過ぎていた。

「あ。店閉めなきゃ」

私も、帰らなきゃ……。

店の中にとめてある、私の赤い自転車。
サドルの下の落書きは消してくれている。

「ありがとう」

隣にいた航さんにお礼を言ったら、ぽんぽんと背中を叩かれた。
その手つきが優しくて、瞳が潤んでしまう。


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