夢見るキスと、恋するペダル
「…何」と航さんが呟く。
触れたい気持ちが溢れそうで、苦しい。
航さんの横顔が、ゆっくり私を捉えた。

「俺に夢抱いても、何もねえよ」

指が解け、あっけなく手が離れる。

「帰ろうか。暗くなってきた」

離された手は行き場をなくし、航さんは振り向きもせずに立ち上がった。



「人の言葉ですぐに傷ついて、左右されて、かと思えば自信過剰で、俺もそんな10代だったよ」

「今は、そんなことないの?なんで?」

「んー……本気の恋愛でもすれば変わるんじゃない」

「航さんは、本気の恋愛……きゃっ」

段差があることに気付かずに、草に埋もれた石段で躓いた。付いた両手はすりむいて血が滲んでいる。

「いた…」

「おいおい、大丈夫か?もう…そそっかしいな」

私の前に座る航さん。筋肉質なその腕に、高めの体温と、香水が肌に馴染んだような、私の中の本能が刺激されるような香りがして、もっと近づきたくなる。
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