夢見るキスと、恋するペダル
あんまり断るのも、おかしいのかな。
やっと涙が止まって、結局店の奥の冷蔵庫前に立つ私。

自転車屋さんは「直った」と、昨日より少し柔和な雰囲気で戻ってきた。

「あれ。まだ選んでないの。ちょっとどいて」

「はいっ」

後ろに下がると、自転車屋さんは冷蔵庫を開けて缶コーヒーを取った。
他にもビールやジュースなど、本当にいろいろラインナップされていた。

「どうせ中元の貰いものだから、遠慮しないで飲んでって」

「は、はい、じゃあ……パイナップルジュースを……」

「すげー。俺の好みと正反対」

「えっ……」

な、なんかそう言われると、フクザツ…。
一瞬戻そうとしたのを察知されたのか、「あー!ごめんごめん。飲みな」と私の手首をつかんで、冷蔵庫のドアを閉めた。

手が触れた。
強く、ぎゅっと触れられて、驚いて、心臓が…。

「パイナップルジュース好きなら、持って帰る?誰も飲まないし」

「あ、奥さんとか、ご家族は…」

「俺、独身なんで。そこ座って飲みなよ」

あ、そ、そうなのか。
なんだか調子が狂って仕方ない。
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