冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 馬車が動き出すと、私はレイを横目でちらりと伺い見た。

 相変わらず整った横顔。だけれど眉間にシワが寄っている。

 なぜ、そんなにもイライラとしてるのだろう。つい先ほどまでは楽しそうにしていたのに。

 首を傾げたくなるような気持ちで、一体何が有ったのかと少し前の記憶を遡る。

 そしてふと思い立った。

「レイ」

 レイの視線が自分に向くのを見てから続けて言った。

「もしかして嫉妬しているの?」

 私の言葉にレイは驚愕の表情を浮かべた。
 普段は反応が早いのに今は言葉が出て来ないようだ。

 図星だったのかと勢い込んで更に続けた。

「エレインが王太子殿下に呼ばれた事が気にいらないんでしょう?」

 レイは昔から美人で明るいエレインの事を気にいっていたからそう思ったのだけど、レイは顔をしかめてから呆れた様子で否定した。

「そんな事あるか」
「違うの? でも王太子殿下の話題のあとに機嫌が悪くなったじゃない」
「全く、見当違いだ」

 レイはそう言い切るとふてくされた様に窓の外の景色に目を向けてしまう。

 見当違いって、だったら何を怒っているのだろう。
 機嫌が悪くなったと言った事は否定しなかったから、怒っているのは間違いないし、それを隠す気もないのだろう。

 と言うことは原因は私? 身に覚えは無いけれど……。

 私は思わず小さな溜息を吐いた。
 こんな風に機嫌の悪さを態度に出されると困ってしまう。

 レイとは打算的な条件付婚約関係だけれど、出来れば仲良くしていきたい。
 長い結婚生活、穏やかに暮らしたいと思っているのに。
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