冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 目まぐるしい勢いでレイに婚約を言われた時の事を思い出す。

『周りが結婚しろとうるさく見合いを勧めて来るが結婚なんて面倒だ。気位の高い女に束縛され干渉される未来しか想像出来ない』

『でもローナなら大丈夫だな。俺と婚約しないか? 結婚後は当然ルウェリン家への援助も惜しまない』

 そう憂鬱そうな表情でレイは語った。それから……。


 必死に考えたけれど他には何も思い出せない。レイが言う通りなのだ。

 私からの干渉と束縛は駄目だけれど、レイも同じ条件を守るとは一言も言っていない。

 考えてみれば私から出した結婚の条件は“ルウェリン家への援助”それだけなのだ。

 明らかになった事実に動揺していると、レイがその麗しい顔に満足そうな笑みを浮かべた。

「思い出したな」
「……思い出したけど、でもレイは私の事を好きな訳じゃないでしょう?」

 それなのに束縛すると言うのだろうか。自分が満足する為だけに?

 別に他の男性と仲良く話したいなんて思っていない。愛がない結婚でも自分は夫に対して誠実でいるつもりだった。

 それでもレイの命令に素直に頷けなかった。

「気持ちがある訳じゃないのに、まるで所有物のように扱われるのは嫌だわ」

 悲しくなって呟くと、レイがその手をそっと私の頬に添えて来た。

 少し力を入れてレイと目が合うように上を向かされる。

 深い青い瞳と視線が重なる。美しいその瞳にはそれまで見た事もないような、甘さと熱が篭っていて私は言葉を失った。

「俺はローナが好きだよ」

 驚く間もなくレイの端整な顔が近付いて来る。

「……!」

 ひんやりとした唇が重なり合う。

 反射的に抵抗すると、レイは強い力で抱き締めて来た。

「ま、待ってレイ」
「駄目だ」

 そのまま息も出来ないような深いキスをされる。

「んんっ!」

 圧倒的な力の差で、とても抵抗しきれない。
 わたしはレイのされるがままになるしかない。
 それからしばらくの間、馬車のは二人の吐息で満たされた。
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