冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「……そうなんだ」

 困った。なんだかとても嬉しくて、顔がだらしなく緩んでしまいそう。

 慌てて引き締めながら考えてみれば、社交以外でレイとふたりで出かけるのは初めてだと気が付いた。

 レイが忙しいのは前から分かっているし、そもそも以前は軽々しく誘い合う関係では無いと思っていたから機会が無かった。

 でも、今は貴重な休みに誘って貰える。

「もしかして嫌か?」
「え、どうして?」
「恐い顔してるから」

 レイに言われ思わず両手で頬を覆った。
 ニヤニヤしないようにするあまり顔が強張ってしまっていたのかも。

 変に誤解されてしまう前に、私は素直に告白した。

「嫌だなんて思ってない。凄く嬉しい、本当に……」

 少し恥ずかしかったけど、レイがとても嬉しそうに笑ったから良かった。

「ねえ、どこに行くか決めているの?」
「幾つか候補は考えているが、ローナは行きたいところは無いのか?」

 どうやらレイは私の希望を優先してくれるようだ。

 ますます嬉しくなって、私は以前から行ってみたかった街の名前を口にした。

「プラムの街に行ってみたいわ」

 プラムは私達が住む王都から馬で一時間程の距離の大きな街だ。

 大規模な市場が有り、王都とはまた違った品物が所狭しと並んでいて、見るだけでも飽きないと、以前兄に聞いた事が有りともて気になっていた。

 だけど、留学中の兄の貴重な帰省休みに連れて行ってと頼むのは気が引けた。

 独りでプラムに行くのはもっと難しい。

 末端とはいえ貴族の娘として育った私はあまり世慣れしていないから、王都ならまだしも他の町に独りで外出は無謀な事なのだ。

 かと言って大貴族の令嬢達のように私専属の護衛などいるはずもないから、基本的に遠出はしない。

 そんな理由で行きたいと思いながらも行動出来ずにいたのだ。

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