冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「ローナ!」

 レイは上機嫌で立ち止まった私に近づいて来る。

 目の前で立ち止まると、優しそうに微笑んで言った。

「そういう格好も可愛いな」

……レイって私の事に関しては客観性が無いと思う。

 そう分かっているんだけど、褒められるとやっぱり嬉しい。

「行こう」

 レイに腕を引かれ、玄関ホールから外に出る。

 そこにはいつも夜会に行く時とは違う、地味で小さな馬車が用意されていた。


「これに乗って行くの?」
「ああ。ローナは馬に乗った経験が殆ど無いだろ? いきなり馬で一時間移動するのは負担が大きいから今日は馬車でな」

 そう言いながらレイは私を馬車へとエスコートしてくれる。

 普段レイが使う馬車に比べると中も狭い。
 ふたりで並んで座ると身体が触れてしまう程だ。

 でも座席は程良いクッションが効いていて、や座り心地は悪くなかった。

 私達が落ち着くと馬車はゆっくり走り出す。
 ルウェリン家の門を出て走り、王都の大門をくぐると更に速度を上げて行く。

 王都を出るとレイは馬車の窓のカーテンを開けてくれた。

 流れて行く景色。少し離れた所に大きな河がある。川沿いを沢山の荷物を背負った人が何人も歩いている。

「レイ、あの人達は王都に向かっているのかしら」

 私の言葉にレイは頷く。

「単独で動いている商人だな。荷馬車は使わずにああやって歩いて移動しているんだろう」
「大変ね」

 隣町のプラムですら馬で一時間かかる。歩いたらとても時間がかかりそうだ。
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