冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「一通り挨拶は終ったな」
これで義理は果たした、後は自由時間だ。とでも思っているのか、満足そうな顔でレイが言う。低く耳触りの良い声だ。
ただし婚約者に対するような甘さは一切含まれていない。
家族に対するような気負いのない声音。
「そうね、レイは向こうで友達と話すんでしょ?」
私も淡々と答える。極上の美男の婚約者に対して何の感慨もない声が出た。
「ああ、たまにはローナも来いよ」
珍しく誘われたけれど、間髪入れずに断った。
「私は遠慮しておくわ」
レイの友人は殆どが上級貴族だ。時には王太子まで加わるから、私がそこに混じっても明らかに場違いで居たたまれなさでいっぱいになってしまうだろう。
彼らとは話題が合わないだろうから退屈しそうだし、かと言って黙り続けている事で友人達をしらけさせてしまう心配もある。
「私はいつも通り隣の部屋でお茶を飲んでゆっくりしているから、帰る時に迎えにきて」
せっかくの誘いを断ったせいか、レイは不満そうな表情を浮かべ私から離れ、彼と同身分の友人達の元へ向かって行く。
その後姿を見送ってから、私は隣室に一人で向かった。