冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 予想以上の高額だ。
 私の貯金の殆どが無くなってしまう。

 でも……私はもう一度生地に目を向けた。

 見れば見る程レイに似合いそう。
 品物もとても良いから、金額としては多分妥当なんだと思う。

 ただ私の経済力が無いから高額に感じてしまうだけで。

 半ば購入に気持ちを傾けながら悩んでいると、私の様子を見ていたレイが言った。

「その布が欲しいのか?」
「え? ええ」

 考え込んでいた私は深く考えずに頷いてしまう。
 するとレイは店員に向かって何でもない事のように言った。

「この布を全て貰おう」
「えっ?」

 驚きの声を上げる私にレイは魅惑的な微笑みを向けて来る。

「欲しいものがあるなら俺に言えばいい。ローナの欲しいものなら何でも手にいれてみせる」

 なんて頼もしい言葉だろう。だけど今の場合は困ってしまう。

 レイへのプレゼントなのに、レイに買って貰うなんてあり得ない。

「いいの! これは自分で買いたいの」

 途端にレイは表情を曇らせる。

「どうしてだ?」
「どうしてって……だっていつも貰ってばかりじゃ悪いでしょ?」
「ローナは俺の妻になるんだ。結婚したら俺の財産はローナのものになるんだから遠慮は要らない」
「そ、そんな……」

< 31 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop