冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 我が国の法律では、結婚前の財産は共有しないはずだけど。

 宰相補佐なら当然知っているはずのその規則なんて気にした様子もなく、レイは断言する。

 この場で言われたのでなければ、信頼されているんだと嬉しくなったかもしれない。

 でも、今は何としてもあの一目惚れした生地を自分のお金で買いたい。

 ああ、迷ってないで即決で買うと言えば良かった。

 どうしたものかと悩んでいると、店員が生地を両手で抱えてやって来た。

「お客様。こちらの生地は東方の国で入手したとても貴重な生地になります。この店だけでなくプラムの町と王都合わせても現在これだけしか無いと思います」

 そう言って店員は在庫全てらしい四反をそっと机に置いた。

 四反って……四万ゴールド?

 私は慌てて生地の山を指差しながら訴えた。

「あの! 一反だけ買います。直ぐに支払いますので包んでください」
「一反のみでよろしいので?」
「はい。一反で十分足りるので」
「承知致しました」

 店員があからさまにがっかりした様子で言う。
 高価商品を全部買い取って貰えそうな所だったのだから仕方無い。

 気まずさを感じながら、一反を包んで貰って店を出た。

 背中にレイの不満気な視線を痛い程感じながら。
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