冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「あの布はローナの好みって感じじゃなかったな、どちかかと言えば男向けだ。買ってどうするつもりだったんだ? 他の男に渡すつもりか?」
「ええっ? 何でそうなるの?」
「他の男に贈るものだから俺に買わせたくなかったんじゃないのか?」

 レイったらとんでもない勘違いをしてくれたものだ。

 だいたいちょっと考えたら、私に他の男の人の影なんて皆無だという事が分かると思うのだけど。

 私の行動なんて、レイ自ら毎日ルウェリン邸に来て確認しているのに。
 他の男性と交際をする暇なんて全く無い。完全に潔白だ。

 宰相補佐を勤めるくらいだから頭の回転は良いはずなのに、どうしてしまったのだろう。

 いろいろ心配になりながらも、これ以上こじらせるのは良くないと判断して私はレイに白状する事にした。

「レイ聞いて。私はあの生地をレイにプレゼントしたいと思っていたの」
「え?」
「あの生地で服を作ってレイに贈ろうと考えていたの。いつも貰ってばかりだから、たまには私からも何か贈りたいと思って。レイに贈るものをレイに買って貰ったら意味が無いでしょ? だから断ったの」

 説明するに連れ、レイは動揺を大きくして行く。

「黙っていたのは出来上がるまで内緒にしたかったから。変に誤解させてしまってごめんなさい」

 そう言うとレイはたまりかねた様に言った。

「何でローナが謝るんだ。悪いのはどう考えても俺だろ?」

 レイは、はあと大きく溜息を吐くと、頭を下げた。

「ごめん。嫉妬して冷静さを無くした」

 レイは自分が悪いと判断すると、相手の身分に関わらず躊躇いなく頭を下げる。

 貴族の中でも最高位の公爵家の跡継ぎとして傅かれて育ち、他人に謝る必要なんてそうそう無い立場の人なのに。

 私はレイのこういう所がとても好きだ。

「分かってくれたならいいの」

 ニコリと笑って言うと、レイは気まずそうにもう一度ごめんと言う。

「早く食べちゃいましょう。鴨が冷めちゃうわ」
「ああ」

 レイが再び綺麗な所作で食事を再開する。

「美味しい?」

 そう聞くと今度は穏やかな表情で、「上手い」と答えた。
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