冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「随分と見せつけてくれるな」

 侮蔑の篭ったその声に、私は一気に現実に戻され、レイの腕の中でびくりと身体を震わせた。

 次の瞬間には、レイによって声の主から見えないように匿われていた。

 私の視界に映るのは、レイの広い背中と風に向日葵の花達だけだ。

 だけど、危険が間近に迫っているのを肌で感じる。

 声の主はきっと私達にとって良く無い相手だ。
 今すぐレイと一緒にこの場から逃げ出したい。さっきから身体の振るえが止まらない。

「あの女の髪は多分白金色ってやつだ。ついてるぜ。白金色の髪の女は異国では人気で高く売れるんだよな」

 ゾクリと背筋が冷たくなった。
 今の声はさっきとは違っていた。相手は複数人いると言うことだ。

 しかも高く売れるって……行きの馬車の中でのレイの言葉を思い出した。

『最近若い女が連れ去られる事件が発生しているんだ』

 確かにレイはそう言っていた。もしかしてこの人達が犯人なの?

 対峙しているのは、悪事を何とも思っていないような人達だ。いつ襲って来るか分からない。レイは強いと言われているけれど、相手の沢山いたら負けてしまうかもしれない。

 レイが傷つけられてしまうかもしれない。そして私は連れ去られて売られてしまう?

 心臓が煩く脈打つ。恐くてどうにかなりそうだ。
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