冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「その女を渡しな! そうすればお前は見逃してやる」

 髪の色の事を話していた男の声がした。レイに話しかけているのだろう。

 私は震える唇をなんとか動かしてレイだけに聞こえるように囁いた。

「あの人の言う通り今は逃げて」

 レイは許されるのなら逃げたほうがいい。レイだけでもこの場から逃げられたら傷付かないで済むし、助けを呼んできてくれた方が私も助かる可能性が上がるはずだ。

 頭ではそう分かっている。でもこの先の自分がどうなってしまうのか考えると恐くて声が震えてしまう。
 行かないでとレイに縋ってしまいそうになる。

 そんな衝動を抑えていると、レイの声が聞こて来た。

「ローナ少し下がっていろ」
「え?」
「誰であろうとローナを傷付ける事は許さない。必ず守るから、向日葵畑の中に隠れていろ、あいつらにこれ以上ローナの姿を見せたくない」
「で、でも」

 そんな事をしたらレイが酷い目に遭ってしまうかもしれない。

 迷っていると最初に声をかけて来た冷たい声が再び響いた。

「今回は男も見逃す訳にはいかないな。抵抗されたら殺していいって話だ、片付けろ」

 無慈悲な言葉に身体が凍りつきそうになる。

「早く行け!」

 動けない私にレイの鋭い声が飛ぶ。

 はじかれるように駆け出し言われた通りに向日葵畑に向かい、背の高い花の中に身を隠す。
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