冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 レイに支えられ、薄暗い向日葵畑から移動する。

 あえて先ほどの現場を通らないようにしているのか、来た道とは別の道を使いレイは進んで行く。

「ねえレイ、さっきの人達はどうしたの?」
「主犯格には逃げられた。他は今頃プラムの警備隊の取調べを受けている頃だろう」
「警備隊?」
「ああ。誰かが騒ぎに気付き呼んだようだ。おかげで早く片がついて助かった」
「そう……良かったレイが無事で」

 こうしてまた一緒に歩く事が出来て。

「俺はローナが無事で良かったよ」
「レイが守ってくれたからだわ。ありがとう」

 そう伝えると、レイは立ち止まりじっと私を見つめて来た。

「ローナに何か有れば俺は普通では居られない。ローナに危険が迫ろうとすれば何としても排除する。どんな手を使っても」

 決意表明をするように言うレイの様子がどこかおかしな気がして、私は少し不安になりながら訴えた。

「レイ……ありがとう。でも無理はしないで。危ない事はやめてね。私だってレイが居なくなったら耐えられないわ」
「ああ、ローナが待っていてくれる限り、俺は必ず戻るから」
「約束よ」

 ホッとして微笑むとレイも優しい表情になり、私の肩を抱きながら再び歩き始めた。

 こうして支えて貰っていると、恐怖に震えていた心が少しずつ落ち着いていくようだ。

 レイは随分とゆっくりと歩く。私を気遣って合わせてくれているのだろう。

 私達は、時間をかけて馬車に到着した。


 馬車が走り出すと疲れがどっと襲って来た。
 私のその様子に気付いたのか、レイが気遣うように言った。

「ルウェリン邸に着いたら起すから少し休んでいろ」

 レイのほうが余程疲れているはずだと思いながらも、体力の限界の私の意識はだんだんと靄がかかって来る。

 力を抜きレイにもたれると、当たり前のように受け入れてくれた。

 段々と視界が暗くなる。
 レイの優しい声が聞こえるけれど、もう意味を理解できない。

 それから後の記憶はない。

 翌朝、慣れ親しんだルウェリン邸の自分の部屋で目を覚ました。


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