冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
　そう聞くとキャシー様は教えてくれた。

「アークライト様は夜会にローナ様の代わりの女性を連れていらしたのだけれど、今はその方と恋仲だと噂になっています。婚約者を捨てて、他の女性を追いかけている軽薄な宰相補佐と陰口を叩く者もいますわ」

　正直いってかなりの衝撃だった。

　婚約者を捨てたと言うのは、最近はレイと一緒に夜会に出ていなかったか出た噂かもしれない。

　だけど、他の女性と言うのはどういう事なの？

　聞くのが恐かったけど、今更知らないふりは出来ない。

「レイは誰と噂になっているのですか？」

　恐る恐る問いかける。

「アストン子爵家のティアナ様とですわ」
「ティアナ様……私はお会いした事が無い方です」

　だけど、私はそのアストン子爵家については知っている。

　アストン子爵家はエレインの実家の伯爵家の分家にあたる。
　ルウェリン家とは直接の関係は無いけれど、時々エレインからアストン家の話は聞いていた。

　レイより少し年上の優秀な後継者が居て、その手腕で領地の経営も順調だとか……何の問題もない家だと思っていた。

　ただ、令嬢ティアナ様に関して、エレインはその名前も口にした事が無かった。

　たまたま話題に出さなかったとはいえないくらい、不自然だと思えるほどに。

　どうしてエレインは彼女の存在を黙っていたの？
　その他の話は沢山していたと言うのに。

　レイの口からもアストン家の名前が出た事はなかった。当然ティアナ様の事もだ。

< 45 / 74 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop