冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「レイは……噂を否定していますか?」

 そんな事は無いだろうと思いながら口にする。

「いえ、特には」

 予想通りの答えだった。昔からレイは噂話なんて気にせず放っておく人だから。

 騒いだら余計面倒な事になると言って、涼しい顔で、ら私なら動揺してしまうような中傷も聞き流してしまう。

 だから、今回に限り必死に否定するなんて事ある訳がない。

 そう分かっているけれど、もしかしてと期待してしまった。

 私はレイの口から、アストン家の令嬢とは何も無いとはっきり否定して欲しいのだ。

 そうでないと心がざわめいて平静になれない。

「ローナ様、いかがなさいましたか?」

 黙る私にキャシー様が不思議そうに声をかけて来る。

「いえ……何でも有りません」
「そうですか。ですがもし私でお役に立てる事が有ればおっしゃってください。わたくし、力になりますので」
「え?」

 どういう意味だろう。
 怪訝な表情をする私に、キャシー様は声を潜めて言った。

「婚約者がいる男性に近付くような品性の無い女性をわたくしは許せませんわ。ローナ様が排除に動くのならわたくし何としても協力致します」。
「排除って! そんな物騒な……」

 キャシー様の儚い容姿からは想像出来ない過激な発言は衝撃だった。

 動揺する私にキャシー様は幼子に言い聞かせるようにゆっくり語った。

「それくらいしなければ厚かましい女には分かりませんわ」
「……でも、根も葉もない噂かもしれないわ」

 そう答えると、キャシー様は憐れむような目で私を見つめて言った。

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