冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 まるで毒を飲んだように身体中に痛みが巡っていくようだ。

 目の前が真っ暗になった様な感覚。

 貴族令嬢なら人前で取り乱したりしてはいけない。
 泣いたり叫んだりなんてもってのほかだ。

 でも今の私は、キャシー様の前で涙を堪えるので精一杯で、とても平静を装う事は出来なかった。

 大好きな恋人と親友に裏切られていたのだ。
 その事実が私を酷く苦しめる。

 しばらくの沈黙の後、キャシー様が言った。

「今夜、アストン子爵家の夜会が開かれます。当然アークライト様もおいでになるでしょう」
「……」
「わたくしアストン家からの招待状を持っています……ローナ様、いらっしゃいませんか?」
「え?」

 私はぼんやりとキャシー様を見つめる。

「噂では仲間内でアークライト様とティアナ様の結婚を宣言なさるとか。その場に行ってふたりを糾弾すればよろしいのです。正しいのはローナ様だと言う事を皆に示すべきです」
「そんなこと……」

 私に出来る訳がない。
 俯く私の耳に、小さな溜息が聞こえて来た。

「招待状、置いていきますわ。よくお考えになって」

 行動できない私に苛立ったのかもしれない。

 最後に見たキャシー様は私を冷たい目で見据えていた。
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