冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 キャシー様が帰り一人残された後も、長い間椅子から立ち上がる事が出来なかった。

 身体に力が入らない。

 レイとエレインの裏切りが、私に与えた衝撃は計り知れない。

 親友のエレインは勿論、初めは条件付の婚約者だと思っていたレイの事も私は心から信じるようになっていたのだ。

 そんなふたりに裏切られるなんて、心の準備が出来ていなかった。
 警戒して予防線を張っていれば傷も浅かったかもしれないけど、私はふたりに心を開いていて無防備な状態だった。

 心の痛みは身体に繋がるのかなかな動けなかった。

 侍女が来て私の様子を不審そうに窺い心配して騒ごうとするのを止める為に、漸く立ち上がることが出来た。


 お湯を使い体を清めた。
 酷い顔をなんとかしようと顔を洗っても、後から後から涙が出て来る。


 こんなに苦しいのに、笑顔のレイの顔が思い浮かんでしまう。

 あんなに優しく笑いかけてくれたのに、どうして裏切ったの?

 私が嫌いになったのならはっきり伝えて欲しかった。

 エレインだってレイの事を知っていたなら教えてくれたら良かったのに。

 私だけ蚊帳の外で何も知らなかったなんて惨め過ぎる。

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