冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 キャシー様から聞いた事で酷く混乱して動揺してしまったけど、何度考えてもレイとエレインが裏切った事を信じられない。

 キャシー様が無駄な嘘を言う訳は無いから噂があるのは真実なのだろうけど、何か理由が有るのかもしれないと思ったのだ。

 レイは深い事情が有ってティアナ様と一緒にいる。
 エレインも理由があってそれを黙認しなくてはならず、私にも言えないでいる。

 それは私の願望に過ぎないかもしれないけれど、一抹の望みをかけてみたい。

 私にはどうしてもふたりが私を裏切り傷つけ、自分達だけが幸せになって満足するような人に思えないのだ。


 エレインが、蔑ろにされたらもっと怒れと発破をかけたり、忙しい中このルウェリン邸に遊びに来てくれたのは本当に私の事を友人と慕っていてくれたからだと思う。

 レイが愛していると言ってくれた事、自分の身の危険も顧みず私を守ってくれた事が偽りだったとはどうしても思えない。

 だから私はレイを責めるのではなく、本当の事を確かめる為にアストン家へ行こうと思う。

 そこで何が起きるのか分からないけど、部屋に篭って泣いているよりも後悔は無いはずだ。



 決意すると、侍女に手伝って貰い夜会へ出席する準備をした。

「ローナ様、このドレス少し地味です。先日レイ様から頂いた薔薇色のドレスにしたらいかがですか? あれはとても似合うと思いますよ」

 身支度を手伝ってくれている侍女が私の全身を眺めてから言う。

 今日の私はレイから貰った豪華なドレスではなく、元々自分で持っていた深緑のドレスを選んで身に付けた。

 悪い品ではないのだけれど、ここ最近はレイが用意してくれた、高価な金糸銀糸や宝石を惜しみなく使ったドレスばかり着ていたから、侍女の目には物足りなく映るようだ。

 確かに私の目から見ても華やかさにかけると思う。
 だけど今日の夜会参加の目的を考えると、着飾って行く気にはなれなかった。

「今夜はこれで丁度いいのよ」

 納得いかない様子の侍女からショールを受け取り、私は部屋を出て馬車止めに向かう。
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