冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 ルウェリン家の御者は優秀なのか、少し古い馬車だと言うのに揺れも少なく快適に進んで行く。

 落ち着いた車内で私の心だけが落ち着かない。

 レイを信じている。
 だからどうか噂は嘘だと言って。
 帰る道は安心して穏やかに気持ちで帰りたい。


 アストン家は身分は男爵より一つ上位でしかない子爵家だけれど、高い経済力により立派な門構えの素晴らしい屋敷を構えていた。

 伯爵家のお屋敷と言われても納得してしまいそうなその広い屋敷の玄関ホールに、私は独りで向かっていく。

 地味な格好で来たけれど、エスコートの無い令嬢は珍しいからから、周りの人に見られている気がする。

 怖気付きそうになる自分を叱咤して招待状を見せ屋敷に入る。


 屋敷の中では盛大な夜会が催されていた。

 大広間だけでなく庭も使い、美しく飾り立てたられたその空間を大勢の着飾った人々が行きかう。

 夜の世界をコンセプトにしているのか、夜空の黒と月の銀、星の金色が絶妙に使われていて、こんな時でなければうっとりと溜息が漏れそうな程素晴らしい空間だった。

 流れる音楽は耳に心地よい静かな夜想曲。

 私は大広間を見渡しレイを探す。

 ティアナ様も一緒にいるかもしれないと思うと恐いけれど、夢中で視線を巡らせた。

 レイの姿はどこにも無く、私は思い立って中庭に足を進める。


 中庭には広間とはまた違った美しさが広がっていた。

 暗闇の中に白い布で覆われたテーブルが幾つも並び、休憩用の東屋は白く美しい布で飾られている。所々に置かれた灯りは金色で地上に落ちた星のようだ。

 レイと一緒だったらきっと幸せな気持ちでいっぱいだったんだろう。

 独りの今はこの幻想的な夜にさえ心細さを感じてしまう。

 レイを探して歩き続けると、東屋に人の気配があることに気がついた。

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