冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「……レイ?」

 静かに近付き東屋の様子を窺った私は、凍り付いたように立ち止まり息を飲んだ。

 そこにはレイと私の見知らぬ女性がいて、ふたりは寄り添うように東やに設えられた長椅子に座り、何かを小声で語っていた。

 あの女性が……ティアナ様?

 夜の闇の中でも輝く長い髪は多分プラチナブロンド。皮肉にも私と同じ色。

 だけどほっそりとした華奢な身体は、私よりもずっと庇護意欲を書きたてられるような女性らしさを感じる。

 美しい所作。なんて目を惹く女性なのだろう。

 遠目にもそう感じるのだから間近で接しているレイはもっと惹かれているはずだ。

 呆然と眺めていると、レイの腕が女性の後頭部に周り、そのままふたりの顔が近付いて行く。

 レイが……あの女性にキスをしようとしている。

 そう察したその瞬間頭が真白になっていた。

 どんな事になっても感情的に泣き喚くのは辞めようと決めていたのに、そんな決心も忘れ私はふたりの前に飛び出していた。



「レイ!」

 そう呼びかけるとレイの体がビクリと震えたのが見て取れた。

 直ぐに女性を守るように自分の身体に引き寄せてから、私に目を向け、その目を大きく見開いた。

「ローナ……なぜここに?」

 レイは信じられないといった様子で言う。

 大人しく家に引き篭もっているように仕向けた婚約者が現れたのは予定外なのだろう

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