冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
私はレイから少しの距離を置いた場所で立ち止まった。
声は聞こえるけれど、立ち上がって手を伸ばしても届かない、そんな距離だ。
レイは顔を強張らせ私を見つめている。
最後に会った時のような優しい笑顔の面影もない。
隣の女性は私が誰かを知らないのだろう。
警戒しレイを頼り寄り添っているように見えた。
その様子で答えを察した。
噂は真実だった。何かの間違いで有って欲しいという私の願いは叶わなかったのだ。
「……レイが私を捨ててアストン家の令嬢と婚約すると言う噂を聞いたわ」
そう言うとレイの表情は更に強張る。
けれどその口は堅く閉ざされたまま。
もう弁解する気も無いようだ。
「そんな噂何かの間違いだと思ってこの場に来たの。レイが私を裏切るはずがないって信じて……でも噂の方が真実だったみたいね……だったら初めから正直に言ってくれたら良かったのに」
「ローナ……」
レイが何か言おうと口を開く。けれど言葉が続かないのか黙ってしまった。
私の言葉が本当の事だから何も言えないのかもしれない。
「他に好きな人が出来たのならレイの口から聞きたかった。別れて欲しいってはっきりと言って欲しかった。それでも私は傷付いただろうけど今よりは救いがあるわ。こんな風に惨めにふたりの前に立つ事をせずに済んだのだから……こんな所までのこのこやって来てしまって……私馬鹿みたいだわ」
そう口にすると涙が込み上げて来て止まらなくなった。
レイは顔色を変え立ち上がろうとする。
けれど女性の事を気にしてかそのまま動きを止めてしまった。
自分が惨めで情けなくて仕方なかった。
こんな酷い仕打ちを受けながらそれでもレイへの気持ちを捨てられず、選ばれた幸せな女性の前でみっともなく泣く事になるなんて。
私が夜会に来た事に気付いた人もいるだろう。
明日には捨てられた女として私の名前が社交界の噂に挙がるかもしれない。
こんな結末を迎えてしまうなんて。
地面に突っ伏して泣きたいけれど、これ以上ふたりの前で情けない姿を見せたくない。
その一心で震える唇を開き、宣言する。
「さよならレイ、もう二度と会わないわ」
レイが何か言った気がするけど、涙でいっぱいの視界はぼやけていて見えなかった。
私は夢中でその場を駆け出した。名前を呼ばれた気がしたけれど振り向かない。
息急き切って走り、馬車寄席の端で待っているはずのルウェリン家の小さな馬車を目指した。
遠くにその姿が見えてホッとして立ち止まると、まるで待ち構えていたように声をかけられた。
「すみません」
どこかで聞いた様な女性の声。
振り返ろうとした時、強い衝撃と共に目の前が暗闇に反転し、私の意識はプッツリと途絶えた。
声は聞こえるけれど、立ち上がって手を伸ばしても届かない、そんな距離だ。
レイは顔を強張らせ私を見つめている。
最後に会った時のような優しい笑顔の面影もない。
隣の女性は私が誰かを知らないのだろう。
警戒しレイを頼り寄り添っているように見えた。
その様子で答えを察した。
噂は真実だった。何かの間違いで有って欲しいという私の願いは叶わなかったのだ。
「……レイが私を捨ててアストン家の令嬢と婚約すると言う噂を聞いたわ」
そう言うとレイの表情は更に強張る。
けれどその口は堅く閉ざされたまま。
もう弁解する気も無いようだ。
「そんな噂何かの間違いだと思ってこの場に来たの。レイが私を裏切るはずがないって信じて……でも噂の方が真実だったみたいね……だったら初めから正直に言ってくれたら良かったのに」
「ローナ……」
レイが何か言おうと口を開く。けれど言葉が続かないのか黙ってしまった。
私の言葉が本当の事だから何も言えないのかもしれない。
「他に好きな人が出来たのならレイの口から聞きたかった。別れて欲しいってはっきりと言って欲しかった。それでも私は傷付いただろうけど今よりは救いがあるわ。こんな風に惨めにふたりの前に立つ事をせずに済んだのだから……こんな所までのこのこやって来てしまって……私馬鹿みたいだわ」
そう口にすると涙が込み上げて来て止まらなくなった。
レイは顔色を変え立ち上がろうとする。
けれど女性の事を気にしてかそのまま動きを止めてしまった。
自分が惨めで情けなくて仕方なかった。
こんな酷い仕打ちを受けながらそれでもレイへの気持ちを捨てられず、選ばれた幸せな女性の前でみっともなく泣く事になるなんて。
私が夜会に来た事に気付いた人もいるだろう。
明日には捨てられた女として私の名前が社交界の噂に挙がるかもしれない。
こんな結末を迎えてしまうなんて。
地面に突っ伏して泣きたいけれど、これ以上ふたりの前で情けない姿を見せたくない。
その一心で震える唇を開き、宣言する。
「さよならレイ、もう二度と会わないわ」
レイが何か言った気がするけど、涙でいっぱいの視界はぼやけていて見えなかった。
私は夢中でその場を駆け出した。名前を呼ばれた気がしたけれど振り向かない。
息急き切って走り、馬車寄席の端で待っているはずのルウェリン家の小さな馬車を目指した。
遠くにその姿が見えてホッとして立ち止まると、まるで待ち構えていたように声をかけられた。
「すみません」
どこかで聞いた様な女性の声。
振り返ろうとした時、強い衝撃と共に目の前が暗闇に反転し、私の意識はプッツリと途絶えた。