冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 足音は迷い無くこの部屋に近付いて来る。

 不安に煩く波打つ胸を押さえ、私はもう一度部屋の中を見渡した。

 部屋に出入り口は一つだけ。

 逃げ出せるような窓はなく、隠れられるような場所もない。

 私は何も出来ずに来訪者を待つしかない。

 誰が私をこんな場所に閉じ込めたのか分からないけれど、この部屋に入れられた事から、友好的な相手じゃないと分かっている。

「レイ、助けて……」

 裏切られた相手なのにこんな時頭に浮かぶのはレイしかいない。

 どうする事も出来ないまま私は追い詰められるように壁際に移動したのと同時に、足音が扉の前で鳴り止んだ。


 誰かが扉の前にいる。


 息苦しい不安の中扉を凝視していると、それは鈍い音を立ててゆっくりと開いた。
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