冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 扉を開けたのは私の知らない男性だった。

 高めの背丈。多分、レイと同じくらいある。
 横幅はレイの倍はありそうで、一人で出入り口の扉を塞いでしまっている。

 見たところ年は四十代、両親と同年代くらいだと思う。

 ただその形相は、穏やかでにこやかな両親と全く違う。

 今私を舐めるような視線で観察しているのは、強い怒りをその身の内に滾らせているような歪んだ表情の男性だった。


「お前がローナ・ルウェリンか」

 近付いた来た男性がどこか馬鹿にしたように私の名前を口にした。

 ぞくりとした寒気に襲われ私は唇を振るわせた。

 この人は私が誰か分かっていて、その上で攫いこうして監禁しているのだ。

 その事実は衝撃だった。
 この人はもう私を解放する気が無いのだと分かったから。


 貴族を誘拐した罰はとても重い。
 それは貴族の身分の上下にかかわらず等しく、末端貴族の私を攫っても重罪となるはずだ。

 捕まったら最後。

 それなのにこの男性は私を貴族ルウェリン家の娘だと分かって閉じ込めているのだ。

 それは初めから私を解放しない覚悟でないと出来ない事だ。

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