冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「どうして……」

 思わず声に出すと、男性は嘲るように口元を歪めた。

「なぜ自分がここに閉じ込められているのか分からないといった様子だな」

 男性は私を威嚇するように一歩近付いて来る。

 私はドレスが汚れるのも構わず、誇りまみれの壁に身を寄せながら必死に声を出した。


「わ、分からないわ。私が何をしたって言うの?」
「何も」
「え?」
「お前のようなどこにでもいる小娘など、私は何の関心もない」

 心底見下したように告げられた。

 その間にも距離が縮まったような気がして、私は恐怖に耐える為自分自身を抱き締める。

「それならなぜこんな事を?  私を誘拐した事が発覚したらあなただって無事ではいられないわ」
「発覚はしない。お前は誰にも知られずここで命を落とすのだからな」

 はっきりと自分自身の末路を告げられたショックでクラリと身体が傾く。

 と同時に男に、まるで荷物のように身体を担ぎ上げられ、そのまま乱暴にベッドに投げ捨てられた。


「……あっ!」

 自分の部屋のベッドのようなクッションなどない簡素な木のベッドだ。

 そこに手加減なく投げ捨てられたのだから衝撃は強く、背中を強く打った為か呼吸が出来なくなる。

 あまりの苦しみに動けないでいると、男はその体格からは考えられない程の素早さで私にのしかかって来た。

「ぐっ!」

 重みに耐えられないのか、ギジリとベッドが軋む音がする。

 打ち付けられた背中も体重を受け止めている腹部も酷く痛い。

 腹部に乗りかかられた圧迫感で更に息苦しくなった。

 私を抑えるける男は憎しみの篭った目を向けて来る。何時何をされてもおかしくないこの状況に気が遠くなりそうだ。


 レイ…レイ、お願い助けて。

 朦朧としながら心の中でレイの名前を呼んだ。


 ティアナ様と過ごしているはずの彼が、私を助けに来てくれるはずはないのに。

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