冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「もう! ローナがそんな暢気な事ばっかり言ってるからレイが好き勝手するのよ、私ちょっと文句言ってくるわ!」

 エレインは赤いドレスの裾を翻し、大広間へ向かって行く。
 その後ろ姿が小さくなった時、私は小さく溜息をついた。

 エレインは何も知らない。だからレイとの婚約を告げた時、まるで自分の事のように喜んでくれた。

 この婚約はエレインが思うような素敵なものではないと言うのに……。



 婚約者だけれど、レイと私の間に恋愛感情は一切無い。

 それなのになぜ婚約に至ったのかと言えば、もともと周りに結婚をせっつかれたレイが自分の婚約者として都合の良い相手を探していて、その条件に当てはまるのが私だったと言う話だ。


 レイの望む条件は結構単純だった。


 親戚関係を納得させる為貴族位の女性である事。

 夫となる自分に過度に干渉しない事。束縛せず自由を認める事、それだけだ。


 その会話の途中に、『結婚なんて面倒だ』とうんざりとした顔で言ったレイを見て察した。

 要は結婚後も独身の時と変わらず好きにさせろ、と言いたいんだと。
 
 つまりは外で女性を作っても浪費をしても外泊を続けても、妻には見てみぬふりをして欲しいと言う事だ。

 結婚に望む条件ははそれだけだけれど、もてて仕方ないレイにとっては、その条件での相手探しは困難だったようだ。

 だいたいの令嬢はレイに恋心を持ち彼を独占したがるし、そうじゃなくとも初めから蔑ろにされる事が分かっている結婚などお断りだろうから。

 私もその話を聞いた時、どこが理想の貴公子だと呆れ果てたし、いろいろと突っ込みたくなる気持ちが湧いてきた。でもそれらを全て心の内に飲み込んで最終的には婚約を承諾した。

 女性として愛されない事はよく理解した上での決断だ。

 私としても、その結婚話が都合良く思えたから。
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