冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「随分苦しそうだな」

 私を組み敷く男が楽しそうに言う。

 こんな風に人を甚振って何が楽しいのか分からない。

 だけど今の私には言い返す力がない。
 諦めて目を閉じようとした時、男は私の髪を掴みながら言った。

「恨むならレイ・アークライトを恨めよ」

 その名前で私は意識を繋ぎとめ、目をしっかりと開き男を見上げた。

「なぜ……レイを?」
「我が一族はあの男のせいで滅んだのだ。憎んでも憎みきれない」

 レイのせいで滅んだ?
 そんな馬鹿な。レイは身分を傘に人を傷つけたりなんてしない人だ。

 もし本当にレイが何かしたのだとしたら、この人の一族に問題が有ったのではないの?

 そう言いたかったけれど、腹部を押さえ込まれた私は短い声を出すのがやっとで、男を説得するのは無理だった。

 絶望しながら男を見上げる。

 さっきは気付かなかったけれど、男の服装はかなり上質なものだった。

 貴族か裕福な商人が着るような高価なものだ。この男はもしかしたら貴族なのかもしれない。


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