冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 それでも何とか起き上がろうとしていると、慌てた様な声が聞こえて来た。

「ローナ、無理をするな!」

 え? この声は……。

 信じられない想いで私は声を方を向こうとする。

 レイなの?
 レイが助けに来てくれたの?

「ローナ!」

 レイが駆け寄り私の横たわっているベッドの隣に跪いた。

「……レイ」

 本当にレイだ!
 助かった安堵と、レイが此処まで来てくれた事が嬉しくて、涙が溢れる。

 レイは私の様子を間近で目にして青ざめた。

「そんな……嘘だろ?」

 私の格好はそんなに酷いのだろうか。
 鏡が無いから、自分では分からない。

「ローナ……ごめん、こんな目に遭わせて」

 レイが震える手を私に伸ばして来る。
 謝るという事はあの男の目的がレイへの復讐だと知っているのかもしれない。

「もう大丈夫……助けて貰ったから」

 そう言うとレイはまるで泣いているかのように顔を歪ませて私の手を両手で包んだ。

「ごめん、傷つけてごめん……こんなつもりじゃ無かったんだ」
「レイ……」
「ローナの事は絶対に傷つけたくなかったのに」

 懺悔をするように謝罪の言葉を口にするレイの姿を見ていて感じた。

 レイが謝っているのは私が巻き込まれて攫われた事だけではなく、裏切りの事を言っているのではないかと。

 ティアナ様へ心を移したことを、懺悔しているのだ。

 その様子は心から後悔している様が現れている。後悔して私を傷付けた事を真剣に謝っている。私が昔から知っているレイだ。



 ふたりでいる所を見た時は、裏切られた悲しさと悔しさとレイへの怒りでいっぱいになった。

 レイ達は幸せで私だけが惨めで不幸だと思った。

 だけど、レイも深く苦しんでいたのかもしれない。

 落ち着いて考えてみれば分かる。レイは、私を傷つけて幸せを感じる人では決してない。
ティアナ様の事は、きっとどうしようも無い事だったんだ。
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